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日本二分脊椎・水頭症研究振興財団
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医者と患者のコミュニケーション
−欧米との比較において−
ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル株式会社
最高顧問 廣瀬光雄
財団法人日本二分脊椎水頭症研究振興財団の松本悟会長より、財団定期刊行物B&Cに医者と患者のコミュニケーションについて、米国との比較をしながら文章を書くようご依頼を受けましたので、小生の知る限りをまとめてみました。
医師と患者の関係は、国の持つ医療システムによりかなりの違いが見られます。
第一の大きな違いは、米国の医療は産業として企業活動が位置づけられており、よって、利益の追求が他産業と同じように認められている事であります。
第二は、米国では、医療保険は民間保険が主流で、メディケア(老人保険)、メディケイド(低所得者向け)以外の健康保険はすべて民間保険会社からの支払いとなっている事です。
これに対し、日本の場合は、皆さんご承知のように、医療の位置づけは1)基本的に、産業としてではなく、社会保障制度の中の福祉サービスという位置づけになっており、病院も医師も患者もその限られた枠の中で医療をうけ、行なうわけです。又日本では、2)医療保険制度は国の決めた健康保険制度がほとんどの費用をカバーし、他産業のようなインセンティブの効いた民間保険制度は存在しません。
この二つの医療制度の違いは医師と患者にどのような関係を創り出すのでしょうか?米国の制度下では、医療は企業活動ですから、病院やクリニックは積極的にテレビ、ラジオ、雑誌、新聞等のメディアを使って宣伝活動をします。又、その病院を第三者の目で査定する格付け機関が施設の良し悪し、サービスレベル、病院の技術レベル等々の情報を常時地域へ流します。患者が得られる情報量は、日本と比べ豊富です。
病院は常により良い設備を導入する努力をし、より技術レベルの高い医師を探し、患者の注目を集める事になり、それが収入を上げる手段となります。医師もより良い病院と契約し、より良い技術を提供する事によって、より高い収入を得られる様、インセンティブが働いています。又、患者は自分の収入の中で自分の判断で民間保険に加入していますから、自己の判断で医療レベルを選択出来るようになっており、米国では病院も医師も患者もそれぞれ選択と競争、インセンティブが働くような関係となっています。
よって、病院・医師にとっては、患者はその前にカスタマーであり、患者にとっては、病院・医師は自分の選択したサービス提供者です。その中で生まれる医師と患者の関係は、契約の概念に則った権利と義務が先行します。病院と医師は患者との間でこれから提供する医療について詳細な説明がなされ、お互いが納得する迄話し合われます。患者もどんどん質問をしますし、質問の出来る情報は事前に入手出来る仕組みが整っています。これが、今日本でも導入されつつあるインフォームドコンセントの制度なのです。
米国では患者は徹底したカスタマーとしてのサービスを受けることを期待し、病院・医師はそれに応えるべく、より高いレベルの医療を提供し、より高い収入を上げ、患者も社会もそれを認めている関係が成り立っているわけです。米国のシステムの中では、契約した範囲では徹底したカスタマーサティスファクション(顧客満足)が追求され、待ち時間なしのアポイント制等は当たり前、必要に応じカウンセリング等も用意されています。カウンセリングを通して医師と患者の関係はお互いの立場を理解し合う場にもなっている様です。
日本の医療制度の中では、医療は、社会保険制度における福祉サービスの位置づけの中で行われますから、病院、クリニックは宣伝活動が法律で禁止されており、コミュニティーへの情報提供は限られたものとなり、患者も病院医療情報が 不足し、インセンティブは働きません。全国どこの病院でも同じレベルの医療が前提となり、医師も技術レベルが高くても同じ技術料で、ここもインセンティブが働きません。患者は国の定めた医療健康保険での支払いを受ける事になるので、医療の質を選択するインセンティブが働かないわけです。このようなシステムにおける病院はいくら良い施設、医療を提供しても収入は同じという環境ですから、おのずと限られたものになり、高い技術の医師もインセンティブが働かず、患者は常に患者としてのみの扱いとなり、カスタマーとしての扱いが期待出来ないことになります。
医師と患者の関係は、この中で常に、先生と患者という関係が強くなり、患者さんは先生にすべてお任せしますとなり、医師は患者さんに高い立場から医療を施すという関係になり易いわけです。そこには、契約という概念よりも、人間同志の信頼関係に重きを置かれる関係が出来上がるように思われます。
ちなみに米国の医療制度は良いことばかりではありません。民間保険制度の中で保険に加入しない人が 3,500万人もおり、日本のように国民皆保険は実現されていません。又、権利と義務のコンセプトの中で、病院も医師も訴訟問題を多くかかえる事になってしまいます。
日本のシステムは、国民全員が必要な医療を差別なく受けられるという世界で、まれな利点もあり、この中で医師と患者もお互いにバランスを取りながらコミュニケーションを計っている訳です。
(編者註)カスタマー:お得意様
インセンティブ: 意欲への誘発