医療の質の四拍子
会社を継続して発展させていく上で、「儲ける」ことは大切なことで、儲けなければ給料は払えず、設備投資も出来ず、支払いも滞り、その会社は倒産する。そのため、社長をはじめ社員一同、売り上げを伸ばし、儲けることを懸命に考え実践するのである。
以前、神戸大学のMBAで学んでいたときに、同級生に大手のガス会社の社員と、大手の電力会社の社員がいた。みんな社会人学生同士で話も弾む。たびたびコンパを開いた。鍋物屋に行ったとき、ガス会社の学生はその店が携帯用コンロを使っていないかどうかを、まずチェックした。携帯用コンロでは、ガスの売り上げにつながらない。会社でそのようなところを宴会場所に選ぼうものなら袋叩きにあうとのこと。そして宴会が始まった。ガスの学生のテーブルは、最初から最後までずっと強火で鍋は煮えたぎり、具はぐつぐつになっていた。一方、電力会社の学生は、部屋の冷房をすべて「強」にして部屋をギンギンに冷やしていた。売り上げを伸ばすために、そこまでするのかと呆れもしたが、ある意味、見事な愛社精神に感心した。
ひるがえってみて、医療の世界では「儲ける」という言葉はご法度に近い感覚がある。医療は非営利であるからと、非営利の意味を取り違えた理由で「儲ける」という言葉を忌み嫌う風潮もある。そういう私自身も「儲ける」という言葉に多少の抵抗はあり「適正な利益」などと、お茶を濁しているところもある。
倒産の心配の無い公的病院ならいざ知らず、赤字は倒産につながる民間病院では「儲ける」ことを算段しなければならない。ただ、医療従事者の中には、儲けることとは医療の質を落とすことと思い込んでいる人がいるのも確かである。ある意味、医療に対する思い入れが強く、患者のためにいい医療をしたいという医療従事者ならではの、純粋な気持ちの発露かも知れない。しかし、「武士は食わねど高楊枝」では済まないという現実を理解する必要がある。
先日、徳州会専務の鈴木隆夫先生の話を聞く機会があった。徳州会病院の職員の中にも、儲けることと医療の質が相反するものだと思い込んでいる職員がいて、鈴木先生がその職員に、医療の質とは何か質問すると、答えられる職員はまずいないとのことであった。
医療の質とは、①臨床技術、②患者満足、③医療経営、④社会貢献の四つであるとうかがって、心底納得できた。臨床技術と患者満足は医療従事者なら誰もが思うことである。それプラス、医療経営と社会貢献が、質の四拍子なのである。
日本の一流企業を見ればよく分かる。世界同時不況のあおりを受け赤字に転落したとはいえ、トヨタは日本を代表する大企業である。トヨタ車は、故障が少なく燃費もいいので、ビッグスリーを抜いて世界一の自動車メーカーとなった。その経営手法は、カンバン方式といわれ、改善に改善を重ね、ちょっとした無駄も省く経営である。税を多く払い、スポーツや文化振興のスポンサーとなり、社会貢献もしている。車の質を高め、顧客に満足を与え、しっかりとした経営を行い、社会に貢献している。四拍子そろった立派な会社である。
医療でもこの四拍子を揃えることが重要である。臨床技術と患者満足は多く語られており、ここでは医療経営と社会貢献について考えてみた。
医療経営をあえて商売といってみると、商売の基本は「入りを図りて、出(いずる)を制す」である。収入を増やしてコストを抑えることである。入りを図る手段として商品がある。医療の商品とは、技・知・心である。思いやりのある優しい心をもって、優れた医療技術と豊富な医療知識を、患者さんに買っていただくのである。質の一番目「臨床技術」を高めることで、いい商品として売れて「入りを図る」ことにつながるわけである。
「出(いずる)を制す」の最も手っ取り早い方法は、人件費の削減である。どんな企業でも一番のコストは人件費であるため、不況になったときはまず人員削減を行う。大企業なら千人単位でリストラをする。医療はそうはいかない。そもそも医療は人件費比率が五割を越える労働集約型産業であるうえに、医療法でそれぞれの専門職の定数が決められており、そう簡単に人を減らすことは出来ない。コスト削減は二、三割ある材料費や光熱費で捻出するしかないのである。これとて、せいぜい薬剤をジェネリックに切り替える程度の妙案しかないのが現実である。
そして正しい医療経営で得た利益があってはじめて、給料の支払い、医療設備への投資、建物の増改築が可能となり、事業を継続させることができる。
社会貢献とはなにか。大企業であればメセナという芸術や文化への支援も可能である。医療においては、医療活動そのものと納税であると思っている。
一般診療のみならず、救急医療・僻地医療・災害医療にどれほど貢献できるかであろう。医療活動の範囲は、地域密着から広域までさまざまであるが、優れた臨床技術を発揮することがすでに社会貢献していることになるのである。
もうひとつの貢献である納税に関していえば、民間病院は固定資産税や事業税を払っているので大きな社会貢献をしているといえる。しかし、非課税で補助金までもらう公的病院は納税という観点からはまったく社会貢献をしていない。公的病院の非課税の理由が、救急や感染症などの政策医療を担っているからと言われる。果たしてそうであろうか。当院のある神戸市の救急患者の六割あまりを民間病院が担っている。大阪府においては七割以上を民間病院で受けているとの集計がある。大流行のインフルエンザ対応にしても、民間医療機関が大きな役割を果たしている。当法人では年間の固定資産税は約六千万円であり、職員一人当たり十万円近くの納税をしていることになる。何百円かの赤い羽根募金どころではない、大きな社会貢献である。
以上、①臨床技術、②患者満足、③医療経営、④社会貢献という、医療の質を構成する四つの項目について考えてみた。
これからも、四拍子そろった病院を目指したいと改めて思っている。
掲載日:2010.06.17 | カテゴリー:医療エッセイ

