高気圧酸素治療(HBO)とは
高気圧酸素治療装置(一人用)
私たちは通常、大気圧の下で酸素濃度約21%の空気を吸って生活しています。呼吸によって取り込んだ酸素のほとんどは血液中のヘモグロビンと結合し、全身に運搬されています(結合型酸素)。一方HBOは大気圧よりも高い気圧の状態で、空気よりも高い濃度の酸素を吸入する治療法です。これにより結合型酸素とは別に、血液中に直接溶け込む酸素が大幅に増加します(溶解型酸素)。溶解型酸素はヘモグロビンを介さずに酸素が運搬されますので、貧血(ヘモグロビン量の低下)などに影響されることなく全身の酸素不足が解消されます。熱傷、凍傷、難治性創傷やスポーツ外傷などの治癒促進にも効果が期待されます。
HBOは、一人用の第1種装置と多人数用の第2種装置があります。当院では第1種装置を使用しています。
HBOの効能
- 溶解型酸素量増量による酸素化効率改善
循環性ショック 一酸化炭素中毒 難治性創傷 熱傷 遅発性放射線障害など - 加圧による生体内気体容積の減少
腸閉塞 減圧症 空気塞栓症など - 酸素が持つ毒性を利用した効果
重症感染症など
HBOの適応疾患
急性一酸化炭素中毒その他のガス中毒(間歇型を含む)重症感染症(ガス壊疽など)
空気塞栓または減圧症
急性末梢血管障害
重症の熱傷または凍傷
広汎挫傷または中等度以上の血管断裂を伴う末梢血管障害ショック
コンパートメント症候群又は圧挫症候群
ショック
急性心筋梗塞その他の急性冠不全
脳塞栓、重症頭部外傷、若しくは開頭術後の意識障害または脳浮腫
重症の低酸素性脳機能障害
腸閉塞
網膜動脈閉塞症
突発性難聴
重症の急性脊髄障害
放射線または抗癌剤治療と併用される悪性腫瘍
難治性潰瘍を伴う末梢循環障害
皮膚移植
スモン
脳血管障害、重症頭部外傷または開頭術後の運動麻痺
一酸化炭素中毒後遺症
脊髄神経疾患
骨髄炎または放射線壊死
※当院では第1種装置を使用しており、重症の患者さんや減圧症の治療には対応できません。
治療の実際
HBOでは、高濃度の酸素を使用します。酸素は燃える物を助ける性質(支燃性)が非常に強く、間違った使い方をすると火災や爆発などの致命的な事故を起こす危険が伴います。そこで安全に治療を行うために、関連学会で定められた規約に則り、持ち込み禁止リストを作成し、治療前にはチェックリストを用いて入念なチェックを行っています。
また、治療は加圧を開始してから約90分間、専用のタンク(チャンバー)の中で過ごして頂きます。一度加圧を開始すると出ることが難しいため、開始前に排泄を済ませて頂き、血圧や脈拍、体温などをしっかり確認してから治療を開始します。
加圧を開始してから15~20分で治療圧力である大気圧の2倍の圧力(2ATA)に到達し、60分間その圧力を保持します。その後再び15~20分かけて大気圧(1ATA)まで減圧します。加圧・減圧時には飛行機の中で感じるような耳の違和感・痛みを感じることがあり、その症状を緩和させるために耳抜きが必要です。初回治療開始前に治療の説明と、それぞれに合った耳抜き方法を選択し指導します。必ず耳鼻科診察も受けていただき、耳の状態も確認します。
治療中はTVを見たり、音楽を聞いたりしながら過ごすことができます。もちろん入眠されても問題ありません。チャンバーの中から外にいるスタッフと通話もできます。
この治療を安全に快適に行うため為には、医療スタッフだけでなく患者さんご自身の協力も必要不可欠です。これからもスタッフ一同、「安全」を最優先事項として取り組んでまいります。