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糖尿病合併症外来Diabetes complications

はじめに

新須磨病院糖尿病センターは2012年に日本糖尿病学会により、須磨区垂水区唯一の糖尿病専門医育成の教育指定病院に認定されてから、週日はほぼ毎日糖尿病の専門外来を開いております。今回、糖尿病合併症の進展予防と管理を主たる目的として、糖尿病合併症外来をオープンすることといたしました。

1.糖尿病合併症外来オープンの目的

糖尿病を悪い血糖コントロール状態で放置していると、網膜症、腎症、神経障害といった糖尿病に特徴的な三大合併症のほか、心筋梗塞、脳梗塞、下肢動脈閉塞など太い血管の障害も合併してきます。その結果、これらの合併症により生活の質(quality of life, QOL)の低下や、生活能力が著しく制限されるようになります。

これらの合併症が出現して、放置されたままの糖尿病は大変怖い病気と言えます。しかし、合併症は糖尿病になると必ず起こるわけではありません。合併症の発症と進展の防止には、健常人の血糖値にできるだけ近い血糖のコントロールが、有効な治療法であるとされています。従って、糖尿病を早期に発見し、なるべく早くから治療を開始し、合併症の発症を防ぎ生活の質(QOL)を確保して、健常人と変わらない人生を全うしたいものです。しかし、日常生活では無自覚のうちに合併症が進行する場合が多く、定期的な合併症についての検査が重要であり、治療や定期的受診を中断すると、重大な結果を招く可能性があります。今回の糖尿病合併症外来オープンの目的は、まさにこの合併症の発症進展を防ぎ、生活の質(QOL)を確保して、重篤な結果を招く可能性を排除することにあります。

2.糖尿病の発症の原因

糖尿病は遺伝因子と環境因子が重なって発症します。日本人に多く見られる2型糖尿病では、両親、祖父母、兄弟、姉妹などのご家族の中に糖尿病の人が居る場合の方が、全くいない人の場合よりも、糖尿病が発症する確率が高いことが知られています。あなたの遺伝子の中に糖尿病を起こしやすい遺伝子があっても、これだけでは糖尿病は発症しません。この遺伝子に加え、あなたのライフスタイルが糖尿病の発症に大きく影響してきます。食事の問題(食べ過ぎ、脂っこいものを好む)、運動不足、ストレス、肥満などの因子が加わると、遺伝子の中に眠っている糖尿病の発症遺伝子を目覚めさせてしまうのです。つまり、遺伝子的素因に環境因子が加わって、初めて糖尿病は発症します。

他方、インスリンを合成する膵β細胞が破壊され発症する1型糖尿病では、1型糖尿病になりやすい体質(感受性)に自己免疫システムやウィルス感染などが関与して発症すると言われています。

肉親に糖尿病の人がいる方は、環境因子を排除するようなライフスタイルを選択することで、2型糖尿病の発症を防止、あるいは遅らせることが可能です。今からでも遅くはありませんので、身近に糖尿病の人がいる方は糖尿病発症予防のために生活習慣の是正を心がけてください。

3.糖尿病の自覚症状

自覚症状は、高血糖による症状と、合併症による症状の二つに大別されます。糖尿病になっても、しばしば血糖の上昇が軽度の時期には、ほとんど無症状のこともあります。主な症状のうち口渇、多飲、多尿、体重減少などの症状は、一般に空腹時血糖が250mg/dl以上の極めて高い値に上昇すると生じるので、これらの症状が出た場合、すでに糖尿病の状態がかなり悪い危険信号と考えられます。一方、合併症に伴う自覚症状は、糖尿病発症後、数年から10年程度、経過してから見られます。具体的な症状としては、視力障害(網膜出血や白内障によるもの)、腎臓障害によるむくみ、手足のしびれ(なかなか難治性です)、持続する神経痛、インポテンツ、そして血管障害による狭心症、心筋梗塞に伴う胸痛(神経障害があるので痛くないこともあるのが大問題です)、あるいは脳梗塞による、運動麻痺、記憶障害、認知症など、多彩な症状が起こります。

4.糖尿病の合併症とは

糖尿病の合併症は、三大合併症(細小血管症と呼ばれています)と動脈硬化があります。特に糖尿病に特有な網膜症、腎症、神経障害は、糖尿病の三大合併症と言われています。これらの合併症は頻度的にも多く、また日常生活を送る上で大きな障害となります。繰り返しますが、合併症はすぐには起こりません。初期の合併症は、血糖値を良好に保つと元に戻りますが、しかし、ある一定の限度を越えて進行した合併症は血糖値を良好にしても、完全には元に戻すことができないのです。

血糖値が良好に保たれ、およそ糖尿病の合併症とは無縁の患者さんがいる一方で、血糖値が毎回びっくりするほど高く、いくら入院を勧めても“症状がないから大丈夫です”と言って、入院を拒否される患者さんがいるのも事実です。

このような高血糖の患者さんは、時間が経つに従って、失明、透析、寝たきり状態に陥ることが多く、“なんでこうなってしまったのだろう”と思う結果にならないためにも血糖コントロールは良好にして、恐ろしい合併症とは無縁の患者さんになってほしいものです。

a .眼の合併症

最も重大な合併症の1つです。最近の全国の視覚障害の調査では、視覚障害の原因疾患として糖尿病網膜症が19.0%(第2位)を占めています(1位は緑内障です)。この網膜症が始まった初期の段階では、通常視力は低下せず無症状で放置されることが多く、逆に視力が低下し眼科を受診したときには網膜症がかなり進行している場合が多いのです。それゆえに視力が正常のうちから、眼科専門医の定期的な眼底検査が非常に大切です。網膜症の重い患者さんにはレーザー光凝固術や硝子体手術を行いますが、これは病気の進行を止めるだけで失われた視力の回復は極めて困難な事はしっかり覚えておいていただきたい情報です。

b. 腎臓の合併症

我が国では、糖尿病腎症による透析導入は、1998年新規透析導入となった原因疾患の第1位となってからはさらに増加し、平成19年の1年間に糖尿病腎症が原因で透析導入した患者さんの数は15,750人となっています。そして、その60倍に近い「透析(末期腎不全)予備群」が存在しているようです。透析に要する時間も長く(週3回で毎回3-4時間)、日常生活のなかで自由な時間がかなり制限されて不自由な生活になってしまいます。一方、糖尿病性腎症の患者さんへの腎臓移植は、臓器提供者が少ないなどの理由で思うように進んでいないのが現状です。

 

c. 神経の合併症

末梢神経障害は、体の遠いところから障害されます。
具体的には、足がしびれたり、足がつったりする症状から最後には神経が鈍くなり、痛みや熱さを感じなくなります。最後は画鋲や釘を踏んでも痛くない状態になり、化膿して壊疽から下肢切断の原因になります。一方、自律神経が障害され胃や腸の神経が麻痺すると、便秘や下痢を繰り返したり、血管の神経が障害されると立ちくらみを起こしたりします。また、心臓の神経が障害されると心筋梗塞を起こしても激烈な痛みを感じなくなり(無痛性心筋梗塞と呼ばれています)治療の遅れの原因となり、心不全から致命的になることがしばしば起こります。

d. 動脈硬化症(大血管症とも呼ばれています)

動脈硬化とは血管が細くなったり、詰まったりする病気です。人は年齢とともに動脈硬化も進みますが、糖尿病の人は若くして、動脈硬化が進行します。特に、脳、心臓、末梢血管の動脈硬化が重要です。糖尿病以外にも、高血圧、高脂血症、タバコ、肥満、などが動脈硬化を促進させますので、糖尿病患者さんはこれらに対する配慮、治療が必要です。糖尿病では動脈硬化進展による心筋梗塞の頻度が高く、さらに糖尿病性神経障害による無痛性心筋梗塞が致命的なものとなります。特に高血糖のままでタバコをスパスパ吸っていると足の動脈硬化が進行し、足の壊疽がひどくなって、切断しなくてはいけないことになります。有名な芸能人や横綱経験者の中で、下肢切断例があるのはこの典型的な例です。

また、長い間高血糖を放置しておくと神経障害が進行し、痛みを感じる事がないので壊疽に気がつかず切断に至ることになるのです。そこで糖尿病専門外来におけるフットケアの重要性が理解できます。

e. 脳の合併症

糖尿病では、脳の血管が詰まる脳梗塞がよく見られます。例えば、左の脳の中大脳動脈が詰まってしまうと、右の手足が麻痺して動かなくなります。しかも、言葉を話す神経も障害され、言葉を話せなくなる(失語)のです。小さな脳梗塞が多発し、脳血管性認知症になることがあります。管理の不十分な糖尿病の患者さんの認知症の進行度は非糖尿病の高齢者よりも4、5年早いことが報告されています。療養型の施設で調査してみますと寝たきりになったご高齢の方で糖尿病の有無で、2群にわけてみると、糖尿病のある方はそうでない方より4、5年若いことがわかっています。つまり管理不良な糖尿病があると数年早く寝たきりになることになります。

糖尿病の合併症

おわりに

以上、新須磨病院糖尿病センター 糖尿病合併症外来オープンの必要性について、お話しさせていただきました。糖尿病合併症の管理については、どんな場合でも早すぎることはありません。少しでも合併症について不安があれば、できるだけ早期の受診お勧めいたします。

新須磨病院 糖尿病センター
芳野 原