医療法人社団 慈恵会 新須磨病院

新須磨NEWS

2022年秋号

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がんとの向き合い方特集

 がんとの向き合い方特集1 

ハイパーサーミアとは

がん患者さんの希望となりえる
ハイパーサーミア治療

がん細胞を弱体化させる
可能性を秘めた温熱療法

 主ながん治療というと「手術」「抗がん剤」「放射線」の3つが確立されており、それ以外の治療法は無いと思われていました。しかし、がん組織は正常組織に比べ、熱に弱いことを利用した、新たな治療法が生まれました。
 それが『温熱療法』です。研究の結果がん組織は42.5℃以上の温度で急速に死滅することが分かりました。正常組織は41.5℃でも血管が拡張し、血流の増加によって放熱するため温度が上昇しにくいのですが、がん組織は血流が増えないため放熱することが出来ず、その結果、栄養が行き渡らず死滅します。この特性に注目し研究を重ねた結果生まれた治療法が高周波ハイパーサーミア(温熱治療)です。当院では2018年の夏から高周波ハイパーサーミア治療器(サーモトロン)を導入しています。この医療機器は、がん病巣を中心に体表から一対の電極をセットし、体の内側に高周波電流を流し、その熱によって患部の温度を上昇させる仕組みです。高周波エネルギーを巧みに利用することで、病変のある体の深い部分まで加温することが可能になり、正常な組織を傷つけることなくがん組織だけにダメージを与えることが出来ます。

 また体内の免疫(NK細胞、インターフェロン-γ、マクロファージなど)が活性化し、がん細胞に対して攻撃性を発揮すると学会で発表されているほか、がんによる痛みの緩和や食欲増進、体力の回復、気分がよくなるなど、生活の質の向上が見込まれることもあります。
 もう一つのメリットとして、保険適用であることも治療を受ける上で大きな要因であると考えられます。1990年に保険適用となったことで、通常のがん治療に比べて金銭面的にも診療しやすくなった点は大きな魅力だと思います。(診察料・検査料は別途かかります)保険適用に尽力された京都府立医科大学内科元教授の近藤先生や、大阪大学医学部放射線科元教授の中村先生に色々教えていただいたことで、当院の導入の力強い後押しとなりました。

電極(+)と電極(-)の間に患部を挟むことで、腫瘍を電磁波で体外から加温します。

併用治療での効果に期待が持てる
ハイパーサーミア治療

 ハイパーサーミア治療はがんの初期や末期を問わず、またがんの組織型や種類を問うこともありません。脳・眼球を除く全ての部位への治療が可能です。しかし、この治療だけでがんを完治させることは難しいため、初期の患者さんや体力のある患者さんなどに対しては、手術や放射線治療などを勧めることが多いです。主にステージⅣや転移がある場合、他の治療が出来ない患者さんに対してハイパーサーミア治療を行っています。
 ハイパーサーミア治療は他の治療法との併用で効果を高めることができます。また放射線治療や抗がん剤の投与などは副作用がありますが、ハイパーサーミア治療はほぼ副作用がありません。ごくわずかですが、患部に熱を送るために身体を電極盤で挟むため、軽いやけどを起こす可能性があるくらいです。
 がんの進行を遅らせる効果もあるため、ハイパーサーミア治療によってがんが小さくなり、手術が可能になったケースもあります。がん治療では消失するか小さくならないと効果が無いと判断されますが、決してそうではありません。がんの進行を抑制することで見込まれる効果もあります。当院では他の臓器に転移しているステージⅣの患者さんが多く、手術も抗がん剤も放射線治療も行ったものの効果が見込まれず来院されるといったケースも少なくありません。またステージⅣと聞くとすぐに緩和ケアをイメージされる方もいるかもしれませんが、実際はそうではありません。肺に小さな転移が見つかったためステージⅣと診断され、緩和ケアを勧められた患者さんが当院に転院されてきたことがあります。その患者さんはハイパーサーミア治療を併用した治療を行ったことで肺の陰影が消えたこともあります。そのおかげで孫のお宮参りに行けたとお礼の言葉をいただきました。ハイパーサーミアと他の治療との関係性や個人差など解明できていない部分もありますが、がん患者さんの希望になりえると考えています。

がんだからといって諦めない
粘る治療を心がける

 保険適用されているとはいえ、まだまだハイパーサーミアの存在を知っている方は少ないです。当院は他の病院からの紹介で来られる患者さんが多いですが、治療に熱心な方はご自身で調べてハイパーサーミア治療を知り、当院へ相談に来られる方もおられます。まず知ってほしいことは、がん治療にはさまざまな選択肢があるということです。ステージⅣでも治る可能性はあります。がんだと宣告されると混乱し思考が停止してしまうかもしれません。しかし、決して諦めないでください。私は患者さんとの対話に時間を掛け「諦めないで一緒に粘ろう!」と話をしています。過去に乳がんが肺に転移された患者さんがおられましたが、ハイパーサーミアの治療だけでがんが約10年進行しなかったこともありました。
 がんは完治だけでなく余生をがんと共存するという選択肢もあります。粘っていれば新たな治療法が生まれる可能性も否定できません。がんといかに向き合いながら豊かな生活を過ごすか。これからも患者さんと二人三脚の粘る医療をめざしたいと思います。

 がんとの向き合い方特集2 

内視鏡検査について

胃がんは内視鏡で
早期発見・根治できる

胃カメラは優秀な医療機器です

 皆さんは胃カメラと聞くと「苦しそう」などネガティブなイメージが強いかもしれません。しかし、医療が進歩した現在、昔に比べると格段に負担は軽減されています。例えば上部消化管内視鏡(以下、胃カメラ)の太さですが、経口内視鏡で約10.7mm、経鼻内視鏡では6.75mm。鉛筆より少し細め、だと思えばイメージも少し変わるのではないでしょうか。また、検査にかかる時間に関して、胃カメラを入れている時間は数分間程度です。
 検査ではまず、胃の粘液を溶かす薬と胃の泡を消す薬の水液を飲みます。その後、喉に局所麻酔のゼリーを含みます。経鼻内視鏡の場合、鼻の血管を収縮させる液のスプレーや、鼻腔へ麻酔ゼリーを含んだスティックを挿入し、検査台へ移動。胃カメラを口あるいは鼻から挿入し、胃の中に空気を入れて観察します。通常、口腔内、咽頭、食道、胃、十二指腸下降脚まで観察しています。
 検査中は体の左側を下にした姿勢で寝たまま、体の向きを変える必要はありません。咽頭反射(のどに物を入れた時、吐き気を引き起こす反射)が強い方や、不安の強い方には、鎮静剤の静脈投与(点滴)で、眠っている間に行うことも可能です。その場合は検査後1時間ほど休んで帰っていただきます。鎮静剤使用後に眠気や嘔気が起こることがあるため、検査日は車の運転や高所での作業は避けてください。喉の麻酔が切れる1時間後からは普通に食事ができます。

▲鉛筆(写真左)と経口内視鏡(写真右)・経鼻内視鏡(写真中央)の比較写真

 胃がんの検出率で比較した場合、胃透視(バリウム検査)は0.14%、内視鏡では0.56%との報告があり、内視鏡の方が高い検出率を示しています。内視鏡の場合、粘膜のごくわずかな色調の違いや凹凸の違いが直接観察でき、もし異常が見つかれば、その場で生検(組織を採取して、がん細胞の有無などを細胞レベルで評価すること)が行えます。
 日本人の死亡原因の1位はがんです。胃がんの罹患数は大腸がんに次いで第2位、2020年は13万人以上が胃がんと診断されています。死亡数では肺がん、大腸がんに次いで第3位で、毎年4万人以上が胃がんで亡くなっています。こういう状況でありながら、胃がんの検診受診率は40~69歳では男性が46%、女性が35%とまだまだ低いのです。40歳以上で一度も胃カメラを受けられたことがない方は、ぜひ一度は受けていただきたいです。

ピロリ菌の除菌が
胃がん予防の第一歩

 胃がんの原因の99%はヘリコバクターピロリ菌(以下、ピロリ菌)感染です。ピロリ菌は胃粘膜に生息する細菌です。ほとんどが幼少期までに経口感染(ピロリ菌に汚染された水や食べ物、親からの離乳食の口移しなど)と考えられています。
 日本人のピロリ菌感染者は3,500万人以上だと言われています。ピロリ菌の感染率は60歳以上で50%程度、40歳台は20%程度。衛生状態が整ったことにより、現在19歳以下は10%程度に減少しています。
 ピロリ菌に感染しても自覚症状はほとんどありませんが、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんを引き起こす原因となります。消化管疾患以外にも血液疾患(特発性血小板減少性紫斑病、鉄欠乏性貧血など)、慢性じんましん、心・血管疾患などと関連があることが指摘されています。
ピロリ菌感染の有無は胃カメラの際に胃粘膜を採取して調べたり、採血検査などで診断します。
 ピロリ菌を除菌することで胃がんの発生率が30%低下することが報告されています。
 除菌治療は2種類の抗菌剤と1種類の制酸剤を1日2回、1週間の内服で行います。1回目の治療で80~90%の方が除菌に成功します。一次除菌不成功の場合は、抗菌剤を変えて同様に1週間内服すると90%以上が除菌に成功します。除菌判定は、内服加療後1ヶ月以降に尿素呼気テストで行っています。これは袋に息を吹き込むだけの楽な検査です。
 胃がんの危険因子はピロリ菌感染以外に食塩過多、喫煙、アルコール、家族歴などがあります。
 慢性胃炎や萎縮性胃炎が進行するほど胃がんの発がん率が上がりますので、除菌も早い方が有効です。また除菌後も胃がんのリスクは残り、除菌10年後に胃がんが見つかることもありますので、ピロリ菌感染した方や萎縮性胃炎を指摘された方、胃がんリスクのある方は年に1回程度、胃カメラでの定期チェックが必要です。

内視鏡治療も進んでいます
胃カメラでの定期検診を受けましょう

 早期胃がん(がんが粘膜層または粘膜下層にとどまっている状態。ステージ1)は5年生存率90%以上で、内視鏡的に根治可能です。組織型や形状にもよりますが、早期の胃がんであれば2~3cm程度の大きさまでは、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が可能です。このような局所治療は体への負担が少なく、胃が残ることで、その後の後遺症が極めて少ないことが利点です。
 早期胃がんはほとんど症状がなく、早期発見で根治出来る病気です。診断は内視鏡での定期検診でしか見つけることは困難です。採血や超音波検査(エコー)、CTでは早期胃がんを見つけることはできません。近年、内視鏡の製品技術の向上や人工知能(AI)による内視鏡診断支援システムの開発もめざましいです。胃カメラ検診の重要性を知っていただくことで受診が広まり、早期診断・早期治療が促進され、胃がんで命を落とす方が少しでも減るように私たち内視鏡医は務めています。
 「専門的な内容を丁寧に分かりやすく説明し、適切な検査と治療、生活指導を提案しています。患者さんがリラックスでき、安心して、何でも相談できるような医療を心がけています」

 がんとの向き合い方特集3 

化学療法について

外来から入院まで化学療法の
患者さんを全方向でサポート

副作用に対する治療法の確立によって、
入院だけでなく外来での化学療法も可能に

 化学療法室は2015年9月に開設しました。担当看護師1名が常駐し、乳癌や消化器癌、前立腺癌などの抗癌剤治療、関節リウマチや膠原病の生物学的製剤による治療を行っています。
 一昔前、がん化学療法は入院で行うことがほとんどでした。しかし最近は化学療法副作用に対する治療法の確立や、副作用の少ない抗がん剤の登場により外来で行うことが可能となりました。抗がん剤は免疫チェックポイント阻害薬をはじめとする色々な治療効果を発揮する薬剤が増えましたがその一方で、患者さんや薬剤ごとにさまざまな副作用を起こす可能性があり、治療法も複雑化しています。あらゆる副作用やそれによる生活の質の低下をできるだけ軽減するため、近年、外来から入院まで医療チームが連携し、患者さんのトータルサポートを行っています。
 化学療法室や入院での治療中、担当の薬剤師が患者訪問し、治療内容や副作用についての説明、治療期間中の副作用による体調変化の確認をしています。看護師は安全な輸液管理を心がけ、点滴時間を利用して患者さんの観察や話を聞いて副作用の評価を行ったり、必要に応じて生活指導も行います。また医師や薬剤師、地域医療連携室などの部署に情報提供をする場合もあります。

1年近く通う患者さんが安心して、
快適に過ごせる場所をめざします

 治療を受けるために患者さんが1年近く通う場所なので、安心して快適に点滴を受けていただけるよう、室内音楽や季節毎の飾りなどリラックスした環境の提供を心掛けています。また日常から相談に乗ってくれる薬剤師の存在や治療にかかわる医師や看護師、地域医療連携室の協力、患者さん同士のつながりや励ましなど様々なつながりを大事にしています。外科、リウマチ・膠原病センターなど他部署と連携を図り、安全面に配慮しながら、患者さんの痛みや苦痛を少しでも和らげる看護を日々提供して行きたいと思っています。

 部署紹介 

医療サービス課

安心して病院をご利用いただけるよう、
日々の業務に精進しています

 医療サービス課は、受付を行うだけでなく患者さんの氏名や住所、保険証などの基本情報を登録したり、電話対応や会計、レセプト請求など事務的業務から対人サービスまでを担当しています。入院部門と外来部門があり、会計手順やレセプト作成など、少し業務内容に違いはありますが、どちらも「安心して病院を利用してもらいたい」という思いは同じです。直接医療を提供することができない分、患者さんのご希望やご意見を伺い、速やかに医療へ繋げることができるよう診療サイドへ連絡します。その際、患者さんの気持ちが伝わるよう、医師・看護師が理解できるように伝えることを常に心がけています。
 病気になった時や怪我をした時、体の不調を感じた時など、不安を抱えた方々が病院に訪れた際、最初の接点となるのが私たち医療サービス課になります。そんな時に「窓口のあの人にちょっと聞いてみよう」「電話の声が優しそうだから思い切って相談してみよう」と思っていただき、新須磨病院を選んでいただけるように、私たち医療サービス課は日々精進しています。何か少しでも体に違和感がある時はぜひお声掛けください。

NONOMURA MAKOTO
野々村 誠
医療サービス課 課長

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