当院では2名の医師(うち1名は手外科専門医)により肩、肘、手の専門治療を行っています。骨折や腱損傷、神経障害、関節疾患、腱鞘炎などの治療です。 装具や注射などの保存的治療とともに、2019年は約500例の上肢の外科手術を行いました。肩、肘、手の痛み、しびれ、機能障害でお悩みのかたはどうぞお気軽に御相談ください。電話(078-735-0001から整形外科の担当へ)、お問い合わせフォームでの予約も承っております。
当院は日本手外科学会基幹研修施設に認定されています。

新須磨病院整形外科部長 黒田司
2019年 上肢関連手術 | 516件 |
肩関節(腱板損傷、関節唇損傷など) | 74件 |
骨折、脱臼、靭帯損傷、抜釘 | 288件 |
腱損傷、障害(腱断裂、ばね指など) | 42件 |
末梢神経障害、損傷(手根管症候群、肘部管症候群など) | 67件 |
関節疾患 | 31件 |
腫瘍と類似疾患(ガングリオンなど) | 14件 |
扱っている主な疾患
- 橈骨遠位端骨折
- 橈骨遠位端変形治癒
- 舟状骨骨折
- 手指の骨折
- 腱鞘炎 ドケルバン病
- 手根管症候群
- 肘部管症候群
- 母指CM関節症
- 更年期女性に多い手外科関連疾患と女性ホルモンの関係
- 野球肘
- TFCC損傷、尺骨突き上げ症候群
- 音楽家の上肢障害、musicians hand
橈骨遠位端骨折
橈骨遠位端骨折は最も頻度の多い骨折です(全骨折の約10%)。転倒して手をついて受傷することが多く、高齢の方が多いですが、若い方にも労災事故や転落事故などで生じます。治療の基本は整復ギプス固定ですが、手術器械(ロッキングプレート、髄内釘)の進歩もあり、早期復帰のため手術治療を受けられる方が多くなってきています。
橈骨遠位端変形治癒


橈骨遠位端骨折をギプスで治療したが痛みがとれない、動きが悪いことがあります。原因として変形治癒(ずれたまま骨がついてしまった)による場合があります。リハビリを行っても症状が改善しない場合は手術治療が必要です。変形癒合した骨折部を矯正、骨移植のうえロッキングプレートで固定します。
舟状骨骨折
舟状骨骨折はスポーツ中に転倒して手をついて受傷することが多い骨折です。急性期の症状は手関節の腫れ、痛みですがそれほど激しくないこともあります。手関節の捻挫と思っていたけど、なかなか痛みがとれず、けがから時間がたってから来院される方も多いです。手術は受傷後早期なら約1cmの切開でのスクリュー固定が可能です。偽関節になってしまうと、大きな切開と骨移植が必要となり治療が難しくなります。
出典:日本手外科学会代表的な手外科疾患より
小切開によるスクリュー固定
手指の骨折
転倒、スポーツなどで発生します。早期に日常生活に復帰するように治療を行っています。転位が大きく保存治療では整復位が維持できない例や関節面に骨折が及んでいる場合は手術治療を行っています。
出典:日本手外科学会代表的な手外科疾患より
プレート固定
創外固定
腱鞘炎 ドケルバン病
腱鞘炎とは腱を包んでいるさや(腱鞘)と腱がこすれ合うことで炎症が起きている状態です。症状は指を動かしたときの痛みや引っかかり感です。手指のつけね(弾発指)や手首の親指側(ドケルバン病)に多いです。診断は指の圧痛や弾発現象、超音波で腱鞘の肥厚や炎症の状態を診ます。治療は安静や腱鞘内注射を行います。超音波画像で腱の位置を確認しながら確実に腱鞘に薬液が入るように細い針で注射します。症状が取れない場合は手術を考えます。
ばね指 腱の肥厚と引っ掛かり感
ドケルバン病
出典:日本手外科学会代表的な手外科疾患より
超音波ガイド下腱鞘内注射
手根管症候群
手根管とは手関節の骨と靭帯に囲まれたトンネルで、その中を屈筋腱と正中神経が通っています。正中神経が圧迫され母指から環指のしびれや痛み、母指のつまみ動作の障害といった症状を引き起こします。女性に多く発症し手をよく使う方や妊娠中、手の骨折の後や人工透析を受けている人に多いようです。
診断は神経圧迫部位の手首をたたくとしびれや痛みが指先にひびくティネル徴候や知覚障害の範囲を診ます。確定診断のためには神経伝導速度を検査します。治療は局所の安静、飲み薬、ブロック、手術があります。手術は通常、局所麻酔で行い、約3~4cmの切開、手術時間は15分ほどです。
その他、神経電動検査の計測により診断します。
出典:日本手外科学会代表的な手外科疾患より
神経伝導速度検査
出典:日本手外科学会代表的な手外科疾患より
肘部管症候群
薬指、小指のしびれ、細かいものをつまみにくいなどの症状が中心です。肘を屈曲していると手がしびれてくる、肘の内側がぶつかると手に電気が走った感じがするなどの症状があります。症状が進行して手の筋肉の萎縮が起きてしまうと内服などでは治療が難しく、手術治療が必要となります。手術は尺骨神経を圧迫している靱帯を切り前方に移動します。
出典:日本手外科学会代表的な手外科疾患より
母指CM関節症
ビンやペットボトルのふたをあけるときなどに親指の付け根が痛みます。女性に多く、使いすぎや年齢的な変化で発症します。治療は装具、注射などで経過を見ます。痛みが改善しない、日常生活に支障をきたす場合などは手術治療を行う場合があります。手術方法は関節固定、靱帯再建などその方の手の使い方に合わせて選択します。
出典:日本手外科学会代表的な手外科疾患より
更年期女性に多い手外科関連疾患と女性ホルモンの関係
手外科疾患のうち、手根管症候群や弾発指(腱鞘炎)
ドケルバン病は、40歳以降の女性に多い傾向があります。図1、2、3は当院での手根管症候群、弾発指、ドケルバン病の患者さんの年齢分布を調べた結果で、40歳以降の女性に多くなっていることがわかります。またドケルバン病は20歳~30歳台の出産授乳期の女性にも多くみられます。いずれも女性ホルモンの急激な減少や変動の時期にあたり、ホルモンの変動と疾患の発生に関係があることがうかがわれます。手指の変形性関節症(へバーデン結節、ブシャール結節、母指CM関節症など、図4)も同様の傾向があるようです。
エストロゲン低下が原因なら、エストロゲンを投与すればこういった手の疾患にも有用ではないかと考えられます。しかし、エストロゲンを直接投与することには発がん性や血栓形成といった重大な副作用があり、投与に慎重にならざるを得ませんでした。近年、大豆イソフラボンから作られるエクオールという成分が、乳がんリスクなく、エストロゲンのかわりとして使えることが分かってきました。もちろん、これらの疾患はエクオールのみで治療できるわけではありません。当科では患者さんのお話を十分お聞きしたうえで、投薬や注射、装具、リハビリテーション、手術といった治療法を組み合わせて、症状の改善を患者さんとともにめざしていくよう努力しております。手の痛み、しびれ、変形にお困りの方は、一度御相談ください。
TFCC損傷、尺骨突き上げ症候群

症状の特徴は、手首の小指側の痛みで、タオルを絞る、ペットボトルのふたを開けるときなどに痛みが走ることです。原因は手関節の三角線維軟骨複合体(TFCC)と呼ばれる組織の損傷です。TFCCは、軟骨と靭帯(じんたい)からできている組織で、外傷や反復運動によって切れたり、摩耗したりするなど損傷しやすい部位です。 TFCCが切れたり緩んだりなど損傷していても一般的なレントゲン検査では写らないため、診断がつかないことが多いです。原因不明の手首の関節痛に悩んでいる人は、手の外科専門医の受診をおすすめいたします。TFCC損傷、尺骨突き上げ症候群のほとんどは、症状の特徴と問診とMRIや関節造影検査による画像検査で診断が付きます。治療はまず、専用のベルト付きサポーターを用いた保存療法や関節注射を行います。通常、保存療法で大部分の人は改善しますが、改善されない場合は手術が必要になります。

TFCCは、正式には三角線維軟骨複合体と呼ばれます。手関節の小指側にある関節のクッションとしての働きと関節を支える働きを持っています。転倒して手を着いた際や、手首を強く捻ったりすると損傷を受けます。TFCCのそばにある尺骨という骨がもともと少し長い人(尺骨突き上げ症候群)はTFCC損傷が生じやすくなります。手首の小指側の痛みが特長で、日常生活やスポーツ活動に障害が生じます。治療は、痛み止めの内服やシップの外用を行ない、装具による保存療法を行います。保存療法で、改善しない場合は手術で損傷したTFCCを縫い直します。ほとんどの場合、大きく切らずに内視鏡で行うことができますが、尺骨突き上げ症候群を合併する場合は尺骨を切って短くする必要もある場合があります。
音楽家の上肢障害、musicians hand

楽器を弾くには高度な手の巧緻性が必要です。楽器特有の障害もあり、個人個人で悩みは様々だと思います。当科では音楽を楽しまれる方の悩みについても相談させていただきます。